金の森 銀の森(原本改訂版)20200504

 

 明けぬ夜…静寂(しじま)の中で私の心は旅に出る。


放蕩(ほうとう)とする心が向かおうとする場所

萎縮(いしゅく)する心が留(とど)まろうとする場所

濃い靄(もや)が立ちこめる意識の淵(ふち)…

佇(たたず)んだまま…


<何を待っている?>


意識の中の自分に問いかける…


風?

音?

声?

匂い?

温もり?


…そう,目に映るものはイラナイ…



≪ココニハ ナニモ ナイヨ…≫



意識の淵(ふち)…

唯一(ゆいいつ)ソレと判(わか)る場所から動けない…

ソコを離れたら二度とソコに戻れない気がして…



≪キミハ ナニガシタイノ?≫

≪キミハ ドコニイキタイノ?≫



何がしたい訳じゃない…

何処(どこ)かに行きたい訳じゃない…

ただ…

何かをしなくちゃいけない気がして…

ここにいちゃいけない気がして…




急に足元に立ちこめた靄(もや)が流れ始めた

やがてその靄(もや)は意志を持つかのように分かれはじめ…

一本の細い道が出来た


≪ススンデ ゴラン アシモト ミエルデショ≫


まっすぐに続く一本の道

道の果ては見えない

そこはか となく照らし出された一本の道

一歩を踏み出す




突然真っ暗な闇があたりを飲み込んだ!!

目を凝らす!

暗闇の中にはその色以外は何もない…


否!


唯一…足元の感覚が自分がまだ立っている事を教えてくれる


「ひどいよ!」

「進めって言ったのに!!」


応(こた)えは戻ってこない…

意識の淵から踏み出したことを後悔する

手を差し出してみる

何も触(さわ)れない…

動けないでいる自分にまた声がした


≪ドッチガ マエ?≫


「こっちだよ!」


≪ドウシテ?≫


「こっちに来たからだよ!!」


≪ウシロハ?≫


「こっち!!」

そう言って振り返ると…

いきなり息苦しさを感じた…

体全体が締め付けられるように…

そこに蹲(うずくま)る…


≪メヲ アケテ!≫


体がきりきりと痛む…

全身がねじられるような感覚に陥る…

体中が熱くなる…

「痛いよ! 痛いよ! 熱いよ! 熱いよ!」

『痛いよ! 痛いよ!』

自分の声に誰かの声が重なる…

目を開ける…

微(かす)かな灯(あか)りが見えた…

あそこへ!!

あそこに行きたい!!

体の痛みは更(さら)に激しくなる…

あまりの痛さに意識が薄(うす)れる…

「痛いよ!」…「痛いよ!」…「痛いよ!」

『頑張れ! もう少し! もう少しですよ!』

薄れる意識の中で誰かの声が聞こえた。。。

ふっと…痛みが消えた…灼けつくような熱さも消えた…

体が何かに包まれる…

柔らかい…

心地良い温もり…

安堵の波に襲われ…

泣き始める…

子供の頃のように…

力一杯泣いた…


『おめでとうございます!!』


その声に目を開けた…

汗にまみれた…嬉しそうな母の顔が見えた。


『やっと会えたね…私の赤ちゃん』


今よりも若い…あの頃の母の姿を見つめ続けた。



≪…ソレガ キミノ ウシロ ダヨ!≫
 

≪マエ ナンテ ミエナイ≫


≪ススメ ッテ イワレタ ホウコウニ ミチナンテ ナイヨ≫


≪デモ フリカエッタ ホウコウニ ミチハ チャント アルンダヨ≫


≪ススマナキャ ミチハ デキナイヨ≫


≪無カラ サイショニ ウマレルノハ 光ナンダ≫


≪ソノ 光ハ イツモ ススンデキタミチヲ アカルク テラシテクレル≫


≪アンシンシテ ススメバ イインダヨ≫


≪テラサレタ 光ノナカデ ミツメルコトガ デキレバ コワクナイヨネ≫


≪ソラヲ ミアゲテゴラン “金の森と銀の森”ガ ミエルデショ?≫


≪ドチラモ コワクナイヨ コワイトオモウキモチガ アルカラ コワインダヨ≫


≪“光”モ“闇”モ ヤサシサニ アフレテル≫


≪ソノ ヤサシサニ ツツマレタイト オモウキモチガ ヒツヨウナンダヨ…≫




私はその言葉をずっと聞き続けていた…
それが自分の心の声だと知っていながら。。。。