“広島の朝” 原本改訂版 20210803

76年前の今日,午前8時15分…エノラ・ゲイから投下されたリトルボーイと名付けられた
原爆が当時“広島県産業奨励館”の上空580mで爆発した…。
その破壊力は凄まじく半径2kmのありとあらゆるものを破壊し尽くし…そこに生きる者の
殆ど全てを一瞬のうちに焼き払ってしまったといいます。

幸いにもその災禍を免れ…逃げまどう人々を再び襲ったものがある…広島の地形が招いた
第2の災禍…広島を囲うように聳(そび)える茶臼山武田山、向山という山によって
跳ね返された原爆の爆風と熱風が再び瀕死の街を襲い…その凄惨なる地獄絵図は殆ど一瞬
のうちに完成させられてしまった…。

8時15分と言えば当時を知る由もない私が考えても戦時中とはいえ…朝餉(あさげ)が終わり,
子供達は夏休み…父親は仕事へ…母親は炊事に洗濯という8月の暑い一日が始まった
ばかりだったはず。 町の角には人々が行き交い…子供達の明るい声が聞こえ…
親たちの叱る声や赤ん坊の泣き声がきっと響いて…時計の針は今と同じように1秒1秒を
当たり前のように刻み続けていた。  

       カチッ…カチッ…カチッ…カチッ…カチッ…カチッ…カ…








あの日から76年目…記念式典が開催される当時,“広島県産業奨励館”と呼ばれていた現:原爆ドーム

なんて悲しい名称変更なのか…世界中どこを探してもこんな悲しい名称変更された建造物はないでしょう…

きっと…今年も広島の街は朝早くからそのドームへ鎮魂と平和への祈りに向かう人の波で埋め尽くされるのでしょう。





そして…8時15分…
鎮魂と平和祈願の鐘がヒロシマの空に鳴り響き…広島市長の宣言…厳(おごそ)かにしめやかに。。。
コロナ渦の中の今年でも93カ国と欧州連合の代表が,そして世界中からの参列者を迎えるといいます。
世界には未だに,“戦争”や“テロ”そして“民族紛争”が“大義”という名のもと
恒常的に続いています。 そこには私には推し量れない様々な理由があるはず…。
だけど…“繰り返さないで 繰り返さないでね”と祈ること…そして知ること…
誰だって痛みを感じるはずです。 

  胸が押し潰されそうになるぐらいの痛みは…“もう,繰り返さないで”





       私たちはちゃんと見てるのでしょうか?

       私たちはちゃんと歩いて来たのでしょうか?

       私たちはちゃんと歩いて行けるのでしょうか?

       時折、ふと立ち止まって足元や後ろを眺め…そんな事を考えます。





   広島の空はどうですか…晴れ渡っていますか?

   あの日…爆風を跳ね返した広島の山々が…

   今日は…市内に響き渡る平和の鐘の音を…祈りの声を…平和への願いを…

   静かに…静かに…優しく…街の隅々まで…世界の災禍の国・街・町・村まで…

   いつまでも跳ね返していて欲しいと…広島の空に向かい窓を開け…祈ってみようと思います。

 

“熱いやかん” (原本改訂版)20201206

“昔から人を愛することには自信を持っていた…
でも,人から愛されることに…どうしても自信が持てなかった…”

『人間不信…?!』

誰も,家族も,友達も,同僚も…ましてや他人など…
自分で云うのも変だけど無垢でありすぎた…

あの頃は…
自分を信じ…
他人を信じ…
疑うことを知らず…
気持ちに正直に…
思いやりをもって接していれば…
必ず判ってくれる…
解り合える…
本当に悪い人なんていない…

そんな気持ちでいつも人と接していました。

云われるがままの言葉を信じ…
一生懸命に歩いていた時代でした。

そして…
いろんな事が起こりました。

突き落とされ…
転がり落ち…
やっと立ち上がりかけるとまた…

でも,愚かな私は…
それでも何処かに「きっと判ってくれるはずだ…」

なんて,そんな気持ちを持ち続け…
馬鹿な子だったんです。

孤立し…
誰にも頼れず…
あがき続け…

心の中で…
心が枯れるまで泣き叫んだ…
そんな時代もありました。

『人間不信…』

人が嫌いになり…
世の中が嫌になり…
すべてから解放されたい…

…そうしようと思ったこともありました。


そこからどうやって這い上がってきたのか?


自分でもよく判りません…
這い上がってきているのかさえも…

人間の心や体は本当によくできているものですね。


『淘汰…』


痛みや苦しみは…
それが続けば続くほど…
それをさほど感じなくなるものです。

そして…

さらにひどい痛みや悲しみがそこに降り積もる…

そうすると…

過去のものは痛みから癒しに変わるのです。

自分に対しての癒しであったり…
他人に対しての癒しであったり…

『慈愛…』

…が生まれます。

他人の痛みを自分の痛みに置き換えること…

人を許せること…
思いやること…
いたわりや慈しみ…


ここでまた無垢に戻るんじゃないか?


違います…。

ここで生まれた気持ちは無垢じゃないんです。

きれいなもの…
汚いもの…
美しいもの…
醜いもの…

それらをすべて消化した…
そして昇華したものなんです。

ちょっと判りにくい表現かも知れません。


物事には必ず裏と表…光と影…感情で云えば善し悪し…好きか嫌いか…
文部省の定めた義務教育の過程の中…
日本の封建的且つ閉鎖的な歴史背景に培われた道徳心や価値観…
そんなものが世間一般の通常の判定基準になっています。

そして,必ず人はどちらかを選択しようとします。


無垢な心は幼児のように善し悪しを考えずに“熱いやかん”素手で触ります。
でも…人間不信~淘汰~慈愛と至った心は…“熱いやかん”だと判っている
上でも手を出すんです。




随分前に観た映画…
レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャン

…彼もそうでした。
ここで署長を逃がせば,また自分が追われる…
長い逃亡生活が始まる…
そう判っているのに彼を逃がす…
自分の心がそう叫んでいるから…

そこに…

「なぜ?」

…という質問は不要なのです。

エンディングの時に彼は笑っていました…。

抑圧された何十年…
そこからの解放といった気持ちもあるでしょう。

でも…
彼は署長に「死んでくれ」とも云わなかった…

でも…
署長は自らの命を絶った…

そして…
彼も…ジャン・バルジャンも止めなかった。

止める術を持たなかったのですね。

署長が自分の心を“昇華”する方法を…
自殺という形でしかなし得ないことが判ったから…

生きていれば署長はどうしても彼を追い続ける…
それしかできないことを判っていた…

主として二人の人間が…
各々の心を…
インスパイア<昇華>するまでの経緯と…
その答えの出し方が凝縮された映画でした。

この映画を見ている間…
自分の心が騒いでいた…
自分の心が崩れそうになるのを…
誰かに気付かれないようにするのに必死でした…。

 

 




“SNOW FLAKE”

  街の背中に雪が降る 君の涙にも積もるよ
  ひとりきりでは悲しいと 見上げた夜空さ…

夜の隅で夢を話す 君の息は…
壊れやすい氷の花びら

優しさだけで 生きて行けたらいいのに…
君の夢が叶えばいいのに…

君のきれいな心を汚すものから…
守ってあげるよ SNOW FLAKE…


  少女が歌う 賛美歌が この地球(ほし)を埋める…

雪の舗道 立ちすくんだ君の前を…
終わりのないCandleの列さ

あきらめないでどんなに傷を負っても…
夢見ること 愛すること…

教えたいのさ やわらかすぎる心が…
君の誇りだと SNOW FLAKE…


優しさだけで生きて行けたらいいのに…
君の夢が叶えばいいのに…

君のきれいな心を汚すものから…
守ってあげるよ SNOW FLAKE…


                        “SNOW FLAKE”





以前にアップした“リストカット”の続編的な記事になってしまいました。
タイトルの“熱いやかん”を見て…ここまで読んでいただけた方は極々一部だと思います。
それでも…嬉しいです。 読んでくれて…今日も来てくれて…どうもありがとうございます。

“ねぇねぇ あのね…”(原本改訂版)20200530

 

 

ねぇねぇ あのね…
いつものように 君が僕に話しかけてくる

昨日の出来事を 思いつくだけ話す君がとてもかわいくて…
瞳をキラキラ 輝かせて 髪を指先に からませながら 

そ・し・て…

ねぇねぇ あのね…ねぇねぇ ホントはね…
ねぇねぇ あのね…君が笑い かけてくる


ねぇねぇ あのね…
いつのまにか 君の口癖 僕にうつったみたいさ

二人で顔合わせ 吹き出し笑えば 街行く人が 僕らを振り返る
髪をサラサラ 風になびかせ スカートヒラヒラ 両手で押さえ 
  
それ・で・も…

ねぇねぇ あのね…ねぇねぇ ホントはね…
ねぇねぇ あのね…君が笑いかけてくる


ねぇねぇ あのね…ねぇねぇ ホントはね…
ねぇねぇ あのね…ねぇねぇ … … …

 
 
 
 

当時,私は長い入院生活を某国立病院の第3病棟,607号室で過ごしていました。
同じ病棟にナオちゃんという5歳の女の子が私と同じ病気で入院していました。
遊び盛りの5歳という年齢なのに…少し動くとハァハァ…と息が上がってしまい
いつもゆっくりゆっくりと歩いて私の病室に遊びに来てくれていました。
私が横になって本を読んでいると…おかっぱ頭の上の方だけがベッドの横に
ゆっくりと現れてきて…次ぎにベットの縁に二つのお手てが見えて…
  
ナオちゃんを抱え上げベットにのせてあげると…キラキラと瞳を輝かせながら

   “ねぇねぇ あのね…”

昨日の出来事…さっき食べたお菓子の事…看護師さんの事…
注射の事…点滴のこと…新しいパジャマの事…
次から次へと…嬉しそうに…一生懸命話をしてくれていました。

ナオちゃんの姿が見えなくなるときっといつもの所と見当を付けて
お母さんが呼びに来るか…お昼ご飯の時間まではナオちゃんの
お話タイムです。  
看護婦さんも一緒になって耳を傾けたりしながら時にはお唄の時間にも…
607号室はさながら保育園か託児所状態だったような気がします。

しばらくすると私の手術の日程が決まりました。
ナオちゃんよりも私は早く手術を受けることになりました…
何も知らないナオちゃんはその手術当日の朝もいつものように

   “ねぇねぇ あのね…”

と,私のベッドにやってきました。
お母さんがすぐに飛んできて…

    “今日は大事なご用があるからお話はだめなんだよ!”

少し強い口調の言葉にびっくりしたのかナオちゃんは泣き始めてしまい

    “お話…したい…したい…したかった…”

と,何度も何度も嗚咽の中でそう言いながら母親に諭され抱えられ自分のベッドのある部屋に戻って行きました。
私は次々と自分の体に施される処置に少し緊張してたのか…麻酔のせいなのか
ナオちゃんの嗚咽を頭の片隅で聞きながらも…あのキラキラとした瞳と目を合わせる事も出来ず…ストレッチャーにのせられ…病室を後にしました。
 
 

手術が終わり…その後のICU…
そして元の607号室に戻るまでに2週間くらいかかったでしょうか…
607号室に戻るとそこには私の知っている顔は二人しかいません。
部屋に戻った翌朝になってもナオちゃんがいつものように現れることは
ありませんでした。 その翌日も…そのまた翌日も。
病室に戻ったとしても手術後の痛みが続いていた私は自分の具合に
気をつかってナオちゃんをこさせないようにしてるのか…とも思っていましたが
我慢できず私の母親にその事を聞いてみました。
すると…母親はこういいました。

  “順番順番 今はナオちゃんが手術してICUに入っているんだよ”

ほっとして…

   “それじゃ!もうすぐ元気になるんだねナオちゃんも!!”

   “うんうん ふたりとも! 一緒に元気になれるといいね”

そんな会話をして…

でも…暑い夏の季節はあっと言う間に過ぎ…私の退院日になってもナオちゃんは
607号室に戻ってくることはありませんでした。
母親の話では体力が戻るまで暫くかかるから…というその言葉を信じ…

   “それじゃ,ここに戻ってきたら家に連絡してもらってお見舞いに来ようね”

そう言ってお世話になった看護婦さんに連絡先の電話番号と住所を書いた紙を渡して…
執刀医の先生や病室の人達に見送られながら一生懸命手を振り病院を後にしました。






結局…その後、何の連絡もないまま時は流れ…
2年後,私が手術をした記念日祝いの日,母にナオちゃんのことを聞いてみました
術後の経過が悪く入院が秋まで長引いたものの,なんとか持ち直して退院し
四国の実家に帰ったナオちゃん。
当時の私の歳になる前に永眠された事を母親から聞かされました。

今でも私は自分の手術記念日の日になると
おかっぱ頭の上の方だけがベッドの横にゆっくりと現れてきて…次ぎにベットの縁に二つのお手てが見えて…
 
   “ねぇねぇ あのね…”   って声が聞こえてくる気がします。



一緒に街を歩くことさえ一度も出来なかったけど…生きていればきっと今頃こんな感じかな?…そんな想いを書いてみたのが冒頭の詩です。 
 
 
 

“サボテン”(原本改訂版)20200527

 

 

「いや! いや! もう…やだ… やめて…お願い…やめて…」


女性スタッフの突然の声に部屋を飛び出した私が目にしたのは
廊下に立ちすくみ顔に両手をあて肩を揺さぶり泣き続ける姿でした。

私と一緒に部屋を飛び出した数名のスタッフに気付いた彼女は

「ご…ごめんなさい…何でもないんです…ちょっと…自分が抑(おさ)えられなかっただけ…なんです…」

そう言ってひとり階段を駆け下りて行ってしまった。
もうひとりの女性スタッフが後を追い…階下(かいか)に消えていった。

彼女は去年、派遣の会社から折り紙付きで私の勤める会社に来てくれた才女…。
フランスの某(ぼう)有名大学を主席で卒業したと言う…。

私の知る限りの彼女は頭脳明晰(ずのうめいせき)・解析力(かいせきりょく)・決断力…等々すべてに於(お)いて私も舌を巻くほどの
働きぶりで幾度と無く問題に対するアプローチや洞察力(どうさつりょく)に救われたことだろうか…。

そんな彼女が見せた僅(わず)か数十秒の出来事に私たちは何の言葉もかけてあげることが出来なかった。
幾週間にも渡る徹夜に近い山積みされた仕事…出口の見えない実験・議論の繰り返し…。
関連会社やコンサルティング会社との打ち合わせや相談・交渉に飛び回る私は
彼女に対しての絶大な信頼の元で,その間の社内進捗(しゃないしんちょく)を任せていた。



「大丈夫? 申し訳ないけど…明後日,戻ってくるまでに…」


「今週中に提出しなきゃいけない書類…ここの部分のデータ検証ってやれる?」


「もう少し…具体的にならないかな?…噛み砕いてくれるといいんだけど…」


「今夜はちょっと遅くなりそうだけど…いいかな?」



彼女に対して投げかけた…そんな言葉の数々。



「はい! 大丈夫です」


「わかりました! やってみます」


「そうですね! 30分待っていただけますか?」


「わかっていますよ! こんな状況ですから覚悟は出来ています」


彼女はいつも即答し、笑顔で自分の席に戻り…ちょっとだけ袖(そで)をまくり…仕事を続けていた。
そして時間通りにちゃんと“その応(こた)え”を持って来てくれていた。

「彼女ってすごいですよね!!」

スタッフからの感嘆の声を何度聞いたことだろう…何度同じ溜息(ためいき)をついただろう…。
そんなこんなで……いつかしらか彼女へ寄せる信頼と負担のバランスが崩れ始めていたとも気付けず…。


「いや! いや! もう…やだ… やめて…お願い…やめて…」


私の頭の中で彼女の声が…表情が何度も…何度も…何度も何度も響き続けた…。
彼女は翌日から会社を休んだ…「風邪の為」という休務届けが提出された。
その日から私を含めスタッフの誰もが変わった。
彼女のことを口にする者は誰もいなかった…ただ黙々と個々(ここ)の仕事をこなし続けた。

ひとつ変わったことがあった…あがってくる結果に対しての見解が…目的意識が明確になっていた。


「本質的な問題は…ここですよね! 何処がずれてるのか考えてみたんですけど…」


彼女がよく口にしていた言葉がスタッフの中で“活性化”していた…。
ありとあらゆる可能性の中から導き出す答えは幾重(いくえ)にもなった面紗(ベール)の中から
外郭(がいかく)を捉(とら)えようとするもの…だから個々の主観や期待度で幾枝(いくえ)にも派生してしまい…
抽象画の中から感じ取る…或(ある)いは…騙(だま)し絵の中に入り込み…見つけたつもりの“答え”
信じる“もの”に理由をつけ…その“もの”をベースに次のステップを踏もうとする…
彼女はいつも…そんなスタッフ達に“警鐘”を鳴らし続けていてくれた…。

“想像から導き出す答えは文学の世界…現象や知見(ちけん)から導き出すのが物理の世界”

幼い頃…母親から言われた言葉を思い出した…。

「国語はね…答えは幾つもあるんだよ…どう思ったのかを書けばいいだけなんだから…」
「算数はね…答えは一つしかないの…だからちゃんと順番を覚えて計算するだけ…」


「本質的な問題は…ここですよね! 何処がずれてるのか考えてみたんですけど…」
と、言い続けた彼女の言葉と母親の言葉が頭の中で融合し昇華(しょうか)されていく…
スタッフから持ち上げられてくるすべての結果・見解・結論に彼女の言葉が読みとれた。



翌週に彼女は会社に戻って来た…小さな紙袋を抱えて戻って来た。
スタッフひとりひとりの机にその小さな紙袋から更に小さな紙袋を出し置いていった。
幾種類の“のど飴”を一個ずつ詰め合わせた“スペシャルサプリ”だった。
個別に挨拶を終え…私の席にやって来た彼女はちょっとだけ困った顔をしながら

「もう大丈夫です! 風邪…気を付けて下さいね… 仕事…何からやりましょうか?」


「この報告書、目を通してみてください…“ずれて”いないか…をね!」


…と、山積みの報告書を彼女に渡す…

「一応、目を通しておいたけど…笑えるよ…多分…誤字脱字のチェックがメインかな」

そう言いながら…変わりに受け取った“スペシャルサプリ”の一つをいただきながら…



「え? あっ、はい! 判りました!!」

席に戻った彼女は自分の机…パソコンの隣にちょこんと置かれた小さな“サボテン”の鉢に気付き
一瞬だけこちらを振り返り…ちょっとだけ袖をまくり…仕事に取り掛かかりました。



 



【episode】(エピソード)
サボテンの“棘”(とげ)とは…もともとは“葉っぱ”だったものが厳しい環境下で生き抜く為に
その機能を凝集(ぎょうしゅう)させ…転化(てんか)…代化(だいか)…させた姿です。 僅(わず)かな水分しかない環境の中で
生き抜く術を見つけ…その体内に脈々と水を含む姿…に私はいつも感動を覚えています。
 

金の森 銀の森(原本改訂版)20200504

 

 明けぬ夜…静寂(しじま)の中で私の心は旅に出る。


放蕩(ほうとう)とする心が向かおうとする場所

萎縮(いしゅく)する心が留(とど)まろうとする場所

濃い靄(もや)が立ちこめる意識の淵(ふち)…

佇(たたず)んだまま…


<何を待っている?>


意識の中の自分に問いかける…


風?

音?

声?

匂い?

温もり?


…そう,目に映るものはイラナイ…



≪ココニハ ナニモ ナイヨ…≫



意識の淵(ふち)…

唯一(ゆいいつ)ソレと判(わか)る場所から動けない…

ソコを離れたら二度とソコに戻れない気がして…



≪キミハ ナニガシタイノ?≫

≪キミハ ドコニイキタイノ?≫



何がしたい訳じゃない…

何処(どこ)かに行きたい訳じゃない…

ただ…

何かをしなくちゃいけない気がして…

ここにいちゃいけない気がして…




急に足元に立ちこめた靄(もや)が流れ始めた

やがてその靄(もや)は意志を持つかのように分かれはじめ…

一本の細い道が出来た


≪ススンデ ゴラン アシモト ミエルデショ≫


まっすぐに続く一本の道

道の果ては見えない

そこはか となく照らし出された一本の道

一歩を踏み出す




突然真っ暗な闇があたりを飲み込んだ!!

目を凝らす!

暗闇の中にはその色以外は何もない…


否!


唯一…足元の感覚が自分がまだ立っている事を教えてくれる


「ひどいよ!」

「進めって言ったのに!!」


応(こた)えは戻ってこない…

意識の淵から踏み出したことを後悔する

手を差し出してみる

何も触(さわ)れない…

動けないでいる自分にまた声がした


≪ドッチガ マエ?≫


「こっちだよ!」


≪ドウシテ?≫


「こっちに来たからだよ!!」


≪ウシロハ?≫


「こっち!!」

そう言って振り返ると…

いきなり息苦しさを感じた…

体全体が締め付けられるように…

そこに蹲(うずくま)る…


≪メヲ アケテ!≫


体がきりきりと痛む…

全身がねじられるような感覚に陥る…

体中が熱くなる…

「痛いよ! 痛いよ! 熱いよ! 熱いよ!」

『痛いよ! 痛いよ!』

自分の声に誰かの声が重なる…

目を開ける…

微(かす)かな灯(あか)りが見えた…

あそこへ!!

あそこに行きたい!!

体の痛みは更(さら)に激しくなる…

あまりの痛さに意識が薄(うす)れる…

「痛いよ!」…「痛いよ!」…「痛いよ!」

『頑張れ! もう少し! もう少しですよ!』

薄れる意識の中で誰かの声が聞こえた。。。

ふっと…痛みが消えた…灼けつくような熱さも消えた…

体が何かに包まれる…

柔らかい…

心地良い温もり…

安堵の波に襲われ…

泣き始める…

子供の頃のように…

力一杯泣いた…


『おめでとうございます!!』


その声に目を開けた…

汗にまみれた…嬉しそうな母の顔が見えた。


『やっと会えたね…私の赤ちゃん』


今よりも若い…あの頃の母の姿を見つめ続けた。



≪…ソレガ キミノ ウシロ ダヨ!≫
 

≪マエ ナンテ ミエナイ≫


≪ススメ ッテ イワレタ ホウコウニ ミチナンテ ナイヨ≫


≪デモ フリカエッタ ホウコウニ ミチハ チャント アルンダヨ≫


≪ススマナキャ ミチハ デキナイヨ≫


≪無カラ サイショニ ウマレルノハ 光ナンダ≫


≪ソノ 光ハ イツモ ススンデキタミチヲ アカルク テラシテクレル≫


≪アンシンシテ ススメバ イインダヨ≫


≪テラサレタ 光ノナカデ ミツメルコトガ デキレバ コワクナイヨネ≫


≪ソラヲ ミアゲテゴラン “金の森と銀の森”ガ ミエルデショ?≫


≪ドチラモ コワクナイヨ コワイトオモウキモチガ アルカラ コワインダヨ≫


≪“光”モ“闇”モ ヤサシサニ アフレテル≫


≪ソノ ヤサシサニ ツツマレタイト オモウキモチガ ヒツヨウナンダヨ…≫




私はその言葉をずっと聞き続けていた…
それが自分の心の声だと知っていながら。。。。



空を飛びたかった(原本改訂版) 20200427

改定版

幼い頃から本を読むのが好きだった私…

幸いにも母親が買いためた日本そして世界名作童話大全集をはじめとした

沢山の本が実家の書庫には所狭しと並べられていましたから…書店や図書館

に通うことなく次から次へと片っ端から読んでいたような気がします。

読み進める物語の展開にあわせて心を躍らせ…挿し絵の風景を心に刻み…

ページをめくる毎にどんどんとその世界にのめり込んでいく…

そうそう…私の一番嫌いな映画があります(笑)

ネバーエンディングストーリー" と言う映画…

この映画はとにかく最悪でした…特に誰かと一緒に見るなんて以ての外!!!

恥ずかしくて恥ずかしくて(笑)…

この映画の主人公…バスチアン…これが最悪です…

彼が映画の中で本を読んでいる姿…幼い頃の私にそっくり!!

この映画をDVDで初めて観た時は…呆気(あっけ)にとられたと同時に気恥(きは)ずかしさで赤面(せきめん)し

一緒に観てた友人たちにそれを悟られないように…と必死だった事を

今でも思い出してしまい…未だにまともに観れないサイアクの映画です。

誰か…バスチアンの登場シーンだけをカットした作品…私にください。

…また,話しがそれてしまいました…

そうそう…日本と世界名作童話大全集に於ける大きな違いってご存じでしょうか?

これは私の主観で…正式な答えじゃないんですけど…世界の童話の中には

“空を飛ぶ"…というお話が沢山出てきます。

アラジンの空飛ぶジュウタン…ニルス…果ては孫悟空の筋斗雲…と…

不思議と日本の童話には主人公が空を飛ぶという話しがほとんど無い…

もし…違っていたらごめんなさい。

…また,話しがそれてしまいました…

…と言うこともあり,私は世界名作童話の方が好きでした。

つまり,“空を飛んでみたかった…"

空想という言葉…これも空を想うと書きますよね…私は物語の中でいつも

空を飛ぶ浮遊感にあこがれ貪(むさぼ)るようにページを捲(めく)って

いたような気がします。

いつしか…そのあこがれは夢想(むそう)となり…

…二段ベッドの上から飛ぶ!

…二階に続く階段の踊り場から飛ぶ!

…庭の池をテラスの上から飛ぶ!

…裏山の木にぶら下がり飛ぶ!

…橋の上から小川の上を飛ぶ!

結局…どれも失敗に終わり…擦り傷と捻挫だけを繰り返し…

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ここから本編

と…ある日の夜,夢を見ました。

その夢の中では誰でもひとつだけ願いを叶えてくれるという神様が現れ…

その神様に会うために私は裏山を抜け…野原を駆け抜け…必死で走っていました。

ハァハァ…ハァハァ…ハァハァ…ハァハァと息を切らし…咳(せ)き込みながら…

ようやく辿(たど)り着いた神様の家…大きな重い扉を開け…中に入りました。

なぜかそこは私の父親の書斎とよく似た光景…そして神様はといえば…

白髪の長い髪と白く長いひげの父親の目とによく似て…

(なんと乏しい想像力…)

その神様にお願いをしました。

「空を飛べるようにしてください!」

神様はいきなりノックもせず飛び込んできて願い事を頼む私を見て

「そんなに急いでこなくてもよかったんだよ」

と優しく微笑み…

「そんなに空を飛びたいのかい?」

と腰をかがめ,私の目をのぞき込むように言いました。

「はい! 空を飛んでみたいんです!!」

神様は大きくうなずき私の両肩に大きな手を置きトントンと叩きました。

「よし…これで飛べるようになったよ」

私はすごく嬉しくて嬉しくて…

「ありがとうございます 神様!」

大きくお辞儀をし…外へと飛び出しました。

「ぼうや ちょっと待ちなさい! まだ話しは終わってないよ!」

神様の声に振り返ると…大きな扉のところに神様が宙に浮いて立っていました。

「飛び方を教えてないだろ」

神様はカラカラと大きな声で笑っています。

「あっ! はい! 教えてください!!」

「飛びたいと頭の中で考えて…勢いよく体を前に倒してごらん」

「え、そんなかんたんなの?」

私は頭の中で「飛びたい!」と考え…体を前に倒そうとしました。

でも…地面にぶつかりそうで…怖くてどうしても倒せません。

「大丈夫! 君は飛べるんだよ! ぶつかりっこない!」

神様はまたカラカラと大きな声で笑い,私のそばまで来ると…

「ほら こうやって!」

そう言うと…目を閉じ…勢いよく体を前に倒し…お手本を示してくれました。

ビューゥーン!

地面に倒れかけた瞬間に神様の体は浮き上がり近くの木の梢よりも高いところまで

あっという間に飛んでいきました。

「うわぁー! すごい!」

私はまた…やってみます…目を閉じて…体を…勢いよ…だめです。

昔,つんのめって顔面から床にぶつかった記憶がよみがえり…どうしてもダメ…。

「オイオイ 怖がってちゃせっかくの願い事も意味がない さぁ!」

私は泣きたくなりました…帰りたくなりました…そして泣き出してしまいました。

「また明日…おいで」

神様は優しくそう言うと私のおでこをさすり…

「きっと来るんだよ…待っているからね」

大きな声でカラカラと笑いながら言いました。

「人によって飛べる高さは違うんだ…心が大きければ大きいほど…広ければ広いほど…

そして優しければ優しいほど高く…遠くまで…そう,あの山だって,あの星にだって

飛んでいけるんだよ…。 まずは勇気を出して飛んでみることだよ!!」

私は明日また来ることを約束し…自分の勇気のなさが悔しくて悔しくて…

泣きじゃくりながらトボトボと駈けて来た道を歩きながら帰りました。

そして…家の屋根が遠くに見え始めた頃…日は傾きはじめ…鬱蒼(うっそう)と茂る茅(かや)の道は

風にザワザワと音を発て…自分の足音のザッザッという音が後ろから誰かにつけられて

いるような気持ちになり…恐くて振り返る事も出来ず…でも一度芽生えた恐怖感は

次第に増長(ぞうちょう)されていき…いつしか私は駈けだしていました。

タタタタタッ…タタタタタッ…タタタタタッ…

切り株を飛び越え…滑りやすい段差を飛び越え…タタタタタッ…タタタタタッ

「そうだ! 飛べるんだ! よし!! 飛んでみよう!!」

「えいっ!!!」

両手を前に突きだし…体を思いっきり前に倒し…目の前に地面が!!

「あぁ~っ!!」

その瞬間…フワッっと体が軽くなりました…

「えっ!?」

飛べた! 飛べたんだ! やったぁ~っ! 飛べた飛べた!!

…ん? でもなんか違います。空を飛んでいるけど…地面は目の前にあります。

ちょうど30センチくらいの高さ…そこを飛んでいます…

一生懸命高く飛ぼうと突き出した両腕を上に向けてみても高さは変わりません…

段差があっても…崖があっても…川の上を…ずっと30センチくらいの高さで飛びながら

神様の言葉を思い出していました。

「人によって飛べる高さは違うんだ…心が大きければ大きいほど…広ければ広いほど…

そして優しければ優しいほど高く…遠くまで…そう,あの山だって,あの星にだって

飛んでいけるんだよ…。 まずは勇気を出して飛んでみることだよ!!」

そうか…私の心がまだ小さくて…狭くて…優しさが足りないから…

だから…この高さしか飛べないんだ!!

やがて家の灯りが見えてきました。

…飛べた事の嬉しさと,高く飛べない恥ずかしさと…

複雑な気持ちのまま家の近くまで飛んでいきました。

父が庭にでて焚き火をしているのが見えます…。

父の近くまでそっと飛んでいきました…でもやっぱり父の膝くらいまで高さしか

飛べません…膝を折ると地面に足がつき…私は父の傍(かたわ)らに静かに立ちました。

父は…驚きもせず…カラカラと大きな声で笑い…

「もう少し高く飛べるようになるといいな…」

その声は…あの神様の声と同じでした。

「うん!!」

大きな声で返事をした途端…夢から覚めてしまいました。。。。。

【epilogue】

あれから…ンン年…あの神様の家には結局行けずじまい…

今の私はどのくらいの高さまで飛べるようになっているのかな?

今の私はどこまで…あの空の星まで飛べるようになっているのかな?

もう一度…

「飛びたい!」 

   そう心で願い…勢いよく体を前に投げ出してみようかな…