空を飛びたかった(原本改訂版) 20200427

改定版

幼い頃から本を読むのが好きだった私…

幸いにも母親が買いためた日本そして世界名作童話大全集をはじめとした

沢山の本が実家の書庫には所狭しと並べられていましたから…書店や図書館

に通うことなく次から次へと片っ端から読んでいたような気がします。

読み進める物語の展開にあわせて心を躍らせ…挿し絵の風景を心に刻み…

ページをめくる毎にどんどんとその世界にのめり込んでいく…

そうそう…私の一番嫌いな映画があります(笑)

ネバーエンディングストーリー" と言う映画…

この映画はとにかく最悪でした…特に誰かと一緒に見るなんて以ての外!!!

恥ずかしくて恥ずかしくて(笑)…

この映画の主人公…バスチアン…これが最悪です…

彼が映画の中で本を読んでいる姿…幼い頃の私にそっくり!!

この映画をDVDで初めて観た時は…呆気(あっけ)にとられたと同時に気恥(きは)ずかしさで赤面(せきめん)し

一緒に観てた友人たちにそれを悟られないように…と必死だった事を

今でも思い出してしまい…未だにまともに観れないサイアクの映画です。

誰か…バスチアンの登場シーンだけをカットした作品…私にください。

…また,話しがそれてしまいました…

そうそう…日本と世界名作童話大全集に於ける大きな違いってご存じでしょうか?

これは私の主観で…正式な答えじゃないんですけど…世界の童話の中には

“空を飛ぶ"…というお話が沢山出てきます。

アラジンの空飛ぶジュウタン…ニルス…果ては孫悟空の筋斗雲…と…

不思議と日本の童話には主人公が空を飛ぶという話しがほとんど無い…

もし…違っていたらごめんなさい。

…また,話しがそれてしまいました…

…と言うこともあり,私は世界名作童話の方が好きでした。

つまり,“空を飛んでみたかった…"

空想という言葉…これも空を想うと書きますよね…私は物語の中でいつも

空を飛ぶ浮遊感にあこがれ貪(むさぼ)るようにページを捲(めく)って

いたような気がします。

いつしか…そのあこがれは夢想(むそう)となり…

…二段ベッドの上から飛ぶ!

…二階に続く階段の踊り場から飛ぶ!

…庭の池をテラスの上から飛ぶ!

…裏山の木にぶら下がり飛ぶ!

…橋の上から小川の上を飛ぶ!

結局…どれも失敗に終わり…擦り傷と捻挫だけを繰り返し…

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ここから本編

と…ある日の夜,夢を見ました。

その夢の中では誰でもひとつだけ願いを叶えてくれるという神様が現れ…

その神様に会うために私は裏山を抜け…野原を駆け抜け…必死で走っていました。

ハァハァ…ハァハァ…ハァハァ…ハァハァと息を切らし…咳(せ)き込みながら…

ようやく辿(たど)り着いた神様の家…大きな重い扉を開け…中に入りました。

なぜかそこは私の父親の書斎とよく似た光景…そして神様はといえば…

白髪の長い髪と白く長いひげの父親の目とによく似て…

(なんと乏しい想像力…)

その神様にお願いをしました。

「空を飛べるようにしてください!」

神様はいきなりノックもせず飛び込んできて願い事を頼む私を見て

「そんなに急いでこなくてもよかったんだよ」

と優しく微笑み…

「そんなに空を飛びたいのかい?」

と腰をかがめ,私の目をのぞき込むように言いました。

「はい! 空を飛んでみたいんです!!」

神様は大きくうなずき私の両肩に大きな手を置きトントンと叩きました。

「よし…これで飛べるようになったよ」

私はすごく嬉しくて嬉しくて…

「ありがとうございます 神様!」

大きくお辞儀をし…外へと飛び出しました。

「ぼうや ちょっと待ちなさい! まだ話しは終わってないよ!」

神様の声に振り返ると…大きな扉のところに神様が宙に浮いて立っていました。

「飛び方を教えてないだろ」

神様はカラカラと大きな声で笑っています。

「あっ! はい! 教えてください!!」

「飛びたいと頭の中で考えて…勢いよく体を前に倒してごらん」

「え、そんなかんたんなの?」

私は頭の中で「飛びたい!」と考え…体を前に倒そうとしました。

でも…地面にぶつかりそうで…怖くてどうしても倒せません。

「大丈夫! 君は飛べるんだよ! ぶつかりっこない!」

神様はまたカラカラと大きな声で笑い,私のそばまで来ると…

「ほら こうやって!」

そう言うと…目を閉じ…勢いよく体を前に倒し…お手本を示してくれました。

ビューゥーン!

地面に倒れかけた瞬間に神様の体は浮き上がり近くの木の梢よりも高いところまで

あっという間に飛んでいきました。

「うわぁー! すごい!」

私はまた…やってみます…目を閉じて…体を…勢いよ…だめです。

昔,つんのめって顔面から床にぶつかった記憶がよみがえり…どうしてもダメ…。

「オイオイ 怖がってちゃせっかくの願い事も意味がない さぁ!」

私は泣きたくなりました…帰りたくなりました…そして泣き出してしまいました。

「また明日…おいで」

神様は優しくそう言うと私のおでこをさすり…

「きっと来るんだよ…待っているからね」

大きな声でカラカラと笑いながら言いました。

「人によって飛べる高さは違うんだ…心が大きければ大きいほど…広ければ広いほど…

そして優しければ優しいほど高く…遠くまで…そう,あの山だって,あの星にだって

飛んでいけるんだよ…。 まずは勇気を出して飛んでみることだよ!!」

私は明日また来ることを約束し…自分の勇気のなさが悔しくて悔しくて…

泣きじゃくりながらトボトボと駈けて来た道を歩きながら帰りました。

そして…家の屋根が遠くに見え始めた頃…日は傾きはじめ…鬱蒼(うっそう)と茂る茅(かや)の道は

風にザワザワと音を発て…自分の足音のザッザッという音が後ろから誰かにつけられて

いるような気持ちになり…恐くて振り返る事も出来ず…でも一度芽生えた恐怖感は

次第に増長(ぞうちょう)されていき…いつしか私は駈けだしていました。

タタタタタッ…タタタタタッ…タタタタタッ…

切り株を飛び越え…滑りやすい段差を飛び越え…タタタタタッ…タタタタタッ

「そうだ! 飛べるんだ! よし!! 飛んでみよう!!」

「えいっ!!!」

両手を前に突きだし…体を思いっきり前に倒し…目の前に地面が!!

「あぁ~っ!!」

その瞬間…フワッっと体が軽くなりました…

「えっ!?」

飛べた! 飛べたんだ! やったぁ~っ! 飛べた飛べた!!

…ん? でもなんか違います。空を飛んでいるけど…地面は目の前にあります。

ちょうど30センチくらいの高さ…そこを飛んでいます…

一生懸命高く飛ぼうと突き出した両腕を上に向けてみても高さは変わりません…

段差があっても…崖があっても…川の上を…ずっと30センチくらいの高さで飛びながら

神様の言葉を思い出していました。

「人によって飛べる高さは違うんだ…心が大きければ大きいほど…広ければ広いほど…

そして優しければ優しいほど高く…遠くまで…そう,あの山だって,あの星にだって

飛んでいけるんだよ…。 まずは勇気を出して飛んでみることだよ!!」

そうか…私の心がまだ小さくて…狭くて…優しさが足りないから…

だから…この高さしか飛べないんだ!!

やがて家の灯りが見えてきました。

…飛べた事の嬉しさと,高く飛べない恥ずかしさと…

複雑な気持ちのまま家の近くまで飛んでいきました。

父が庭にでて焚き火をしているのが見えます…。

父の近くまでそっと飛んでいきました…でもやっぱり父の膝くらいまで高さしか

飛べません…膝を折ると地面に足がつき…私は父の傍(かたわ)らに静かに立ちました。

父は…驚きもせず…カラカラと大きな声で笑い…

「もう少し高く飛べるようになるといいな…」

その声は…あの神様の声と同じでした。

「うん!!」

大きな声で返事をした途端…夢から覚めてしまいました。。。。。

【epilogue】

あれから…ンン年…あの神様の家には結局行けずじまい…

今の私はどのくらいの高さまで飛べるようになっているのかな?

今の私はどこまで…あの空の星まで飛べるようになっているのかな?

もう一度…

「飛びたい!」 

   そう心で願い…勢いよく体を前に投げ出してみようかな…